専門家に聞く オピニオンコラム川上 裕司(かわかみ ゆうじ)先生

2014年のデング熱ウイルスが、今年も流行する可能性

デング熱は、媒介蚊となるヒトスジシマカが非常に身近な蚊であることから、国内では10年以上前からいつ発症してもおかしくないと専門家の間で言われていました。既に国内で発症していたものの、たまたま症状が軽く見過ごされていたという可能性も否定できません。
2015年の感染経路のひとつとして考えられるのが、経卵伝達です。経卵伝達とは、ウイルスを獲得した蚊が卵を産み、その卵にウイルスが伝達されるというものです。昨年のデング熱ウイルスを獲得した卵がそのまま越冬し、春先になって孵化する可能性もゼロではありません。

蚊は茂みや植木鉢に潜み、あなたを待ち伏せしている

ヒトスジシマカは待ち伏せ型の蚊です。暗くて光をさえぎることができる植物の茂みや植木鉢などに潜み、人や哺乳動物が通りかかると、触覚で感知し、ターゲットに向かって一気に飛んで行って刺します。あまり遠くへは行けないため、茂みから4~5mの範囲が最も刺されやすいといえるでしょう。また蚊は明け方や夕暮れ時に活発に動きだします。夜は蚊が直射日光を当たらずに済むため、行動範囲を広げて獲物を狙って飛翔しますので、特に外出時は、恰好の餌食とならないよう、虫よけ対策をしっかり行いましょう。

ディートを含有した虫よけ剤を適切に使いましょう

出典:エフシージー総合研究所(1994)
実験では、ディート3.5%程度の虫よけ剤は、塗布直後でも、蚊に刺される可能性があることがわかった。

まずは、蚊に必要以上に刺されない工夫が大切です。前述のような蚊に刺されやすい場所を極力避け、刺されやすい時間帯には、長袖、長ズボンを着用するなど蚊に刺されないように心がけましょう。
また虫よけ剤については、蚊などの虫の忌避に有効な成分「ディート」を含有したものを選びましょう。蚊は主に、人が呼吸したり汗をかいたりして発生させる炭酸ガスに感知して近づいてきますが、ディートは蚊の触角に入り込むことで、炭酸ガスを感知させない作用があります。つまり、ディートを肌に塗れば、蚊はどこに人がいるかわからなくなり、刺すことができなくなるのです。例えるなら、蚊から見ると「透明人間になる」ようなイメージです。また、ディートは濃度によって効果の持続時間が異なります。実験で、ディート濃度が「12%」と「3.5%」程度を含んだ虫よけ剤の忌避効果について調べたところ、「12%」の方が、効果がより長続きすることがわかりました。国内では現在、ディート12%が最高濃度であり、同濃度を含んだ虫よけ剤は、安全性も確認され、医薬品として承認されています。ただし、用法・容量をきちんと守って適切に使用するようにしましょう。

川上 裕司 (かわかみ ゆうじ)先生
エフシージー総合研究所 暮らしの科学部・部長、
環境科学研究室・室長 東京家政大学大学院非常勤講師

専門は環境生物学、昆虫病理学。研究テーマは、生活環境に関わる有害生物 (微生物や害虫)。「博物館・美術館の生物学―カビ・害虫対策のためのIPMの実践―」など著作多数。都市有害生物管理学会事務局長。室内環境学会微生物分科会幹事。

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