専門家に聞く オピニオンコラム嘉糠 洋陸(かぬか ひろたか)先生

潜在感染者数は、はるかに多い?!

いまや、病原体に国境なし

2014年、実に70年ぶりにデング熱の国内感染が確認されました。感染経路として、海外渡航した日本人が海外で感染しウイルスを持ち帰ること、海外から日本を訪れた人がウイルスを持ち込むこと等の可能性が考えられています。これだけ多くの人やモノが動く時代ですから、いまや病原体に国境はないといっても過言ではありません。

軽症の感染者による2次感染の可能性も

日本人の海外渡航から帰国後のデング熱発症例(輸入症例といいます)は、判明しているだけで毎年約200例前後です。しかし、これらは医療機関を受診し、医師がデング熱を想起して検査をし、確定診断がついた場合に限られた数です。実際には、その数字よりもはるかに多い感染者が存在していると考えて間違いありません。デングウイルスに感染しても、発熱程度の軽症の人から、症状を引き起こさない人まで、様々な病態があります。軽症の患者は病院に行かないことも十分に想定されます。2014年のデング熱流行では、少なくとも2種類のウイルスの存在が分かっています。熱海市で発症した患者のウイルス遺伝子を調べたところ、代々木公園で見つかったウイルスとは別のものでした。一方、西宮市の事例は、代々木公園由来のウイルスに感染した人が移動し、他者に感染を広げたと考えられています。軽症の場合、感染に気づかないまま自ら2次感染の感染源になっている可能性があります。

誰でもデング熱にかかるリスクあり

デングウイルスには4つの型があり、2回目に異なる型に感染するとデング出血熱を発症するなど重症化するリスクが高まります。デング熱は感染しても症状が出ない不顕性感染が多いのが特徴ですが、症状の有無の個人差がある理由はわかっていません。一般的な感染症のように、乳幼児や高齢者のほうがかかりやすいというデータもありません。つまり、だれでも感染するリスクがあるということです。

冬は“マスク”、夏は“虫よけ”の習慣を

虫よけ対策には、「自分が病気にならない+他人にうつさない」という2つの意味があります。2014年のデング熱の流行により、結果として「蚊が病気を媒介する」ことに対する周知と理解は日本人に広まったと思いますが、「感染した人が2次感染の感染源になる」ということについてはどうでしょうか。今回のデング熱の流行は、たった1人の感染者から約160人にまで拡大したと考えられています。これは、自分がデング熱を広めるリスクがあることを如実に示す事例です。インフルエンザなどの感染症の予防に冬は“マスク”を着用するように、夏は“虫よけ”が習慣になるといいですね。

嘉糠 洋陸(かぬか ひろたか)先生
東京慈恵会医科大学 熱帯医学講座教授

東京大学農学部獣医学科卒業、大阪大学大学院医学系研究科修了。米国スタンフォード大学医学部留学後、東京大学大学院薬学系研究科講師、帯広畜産大学原虫病研究センター教授を経て、現職。専門は衛生動物学、寄生虫学。

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嘉糠 洋陸(かぬか ひろたか)先生
東京慈恵会医科大学
熱帯医学講座教授
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