デング熱とは更なる感染拡大の恐怖

“2度目”の感染で「デング出血熱」の恐怖

デング熱の本当の怖さは、二度目に感染したときにやってきます。重症型のデング熱とは、どんなものでしょうか。

2015年、誰もが“デング出血熱”にかかる可能性あり?!

資料●デングウイルス感染後の経過
出典:国立感染症研究所

2014年、エボラ出血熱が世界中を恐怖に陥れましたが、デング熱にも、“デング出血熱”があるということをご存知でしたでしょうか。

通常のデング熱は、発症すると1週間前後の経過で回復しますが、一部の患者は経過中に“デング出血熱”になることがあります。“デング出血熱”では、最初はデング熱とほぼ同様に発症し経過しますが、熱が平熱にもどる頃に血液中の液体成分が血管から漏れ出したり、出血の症状が現れたりすることがあります。出血は比較的軽い点状出血から、鼻出血、血便、重篤な吐血、下血と様々です。ショック症状を伴う場合には、“デングショック症候群”と診断されます。これは“重症型デング”と呼ばれ、放置すれば致死率は10~20%に達します。

このような重症化は、異なるウイルスによる2度目の感染が主な要因として挙げられます。デング熱は、50~70%の割合で症状が出ないこともあり、また2014年には一つのウイルスのみの流行であったことから、知らず知らずのうちに感染していた人が、多数いた可能性があります。2015年は“デング出血熱”を患うリスクがあり、注意が必要です。

“グローバル化”で感染リスク拡大

日本と海外を行き来する人が増え、グローバル化が進んでいます。

外国人の来日訪問者増加! 2014年は過去最高の1,341万4千人

日本を訪問する外国人が増えています。10月で既に最多だった2013年の年間1036万人を上回っていましたが、2014年12月には、前年同月比43%増の123万6千人と更に増え、年間で1300万人を超えました。2014年は東京五輪決定や富士山の世界遺産登録など日本が注目を集める出来事が続きました。また、円安が進んだこと、中国人の個人旅行や団体旅行が増えたこと、タイやマレーシアなど東南アジアの訪日ビザの緩和や羽田空港の国際線が増便したことなどが訪日外国人数が増えた要因として考えられています。10月に訪日客向けに消費税の免税対象を酒類や化粧品を含め全ての商品に拡大したことも、中国や香港から買い物客を呼ぶことになりました。

年別 訪日外客数の推移

資料●年別 訪日外客数の推移
出典:日本政府観光局(JNTO)

日本人の海外旅行も増加。感染拡大が懸念される国が人気。

海外に出かけた日本人の数は、1964年の海外旅行自由化以来増加傾向にありましたが、2003年にSARSやイラク戦争の影響で大きく減少しました。その後、2009年のリーマンショックや2011年東日本大震災の影響が懸念されたものの、徐々に回復しています。2013年は1700万人を超えました。

旅行先ランキングのトップ5は、中国、韓国、タイ、ハワイ、台湾です。そのうち、中国と台湾は、特にデング熱の感染が拡大している国です。日本からの旅行者が現地でデングウイルスに感染した可能性は十分にあると言えるでしょう。

このように、国の行き来が盛んになることが、実はデング熱の感染症拡大にもつながっているのです。

資料●2013年 旅行先ランキング
出典:日本旅行業協会
※海外旅行者の旅行先トップ50(受入国統計)の2013年のデータを元に作成。

日本人の海外旅行者数の推移

資料●日本人の海外旅行者数の推移
出典:日本政府観光局(JNTO)

温暖化で、蚊の勢力拡大

デング熱の国内感染が確認されたことに対し、専門家は地球温暖化による環境変化の影響を指摘しています。

進む地球温暖化

2014年の日本の年平均気温と平年との差は+0.28度で、統計を開始した1898年以降、11番目に高い値となりました。この100年で日本の平均気温は1.14℃上昇しており、季節別では、100 年で冬は1.15℃、春は 1.28℃、夏は 1.05℃、秋は 1.19℃上昇しています。

特に1990年代以降、頻繁に高温となっており、その要因としては、二酸化炭素などの温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化の影響に、数年~数十年程度の時間規模で繰り返される自然変動が重なったことが考えられています。今後も温暖化が進むことが推察されています。

資料●日本の年平均気温偏差
出典:気象庁

温暖化により列島を北上する蚊

蚊の生息分布は気温と密接に関係しています。国際機関『気候変動に関する政府間パネル』が、2100年には世界の平均気温が4度前後上昇する可能性を指摘している中、国立感染症研究所は、地球の温暖化にともなって、デングウイルスを媒介するヒトスジシマカの分布が東北地方を年々北上する傾向があることを明らかにしています。さらに、環境省は、ヒトスジシマカの分布域が、2035 年には本州の北端まで、2100 年には北海道まで拡大すると予測しています。ヒトスジシマカの分布が広がることがすぐにデング熱感染に結びつくものではありませんが、デング熱流行のリスクのある地域が拡大する可能性があり、注意が必要です。

資料●東北地方におけるヒトスジシマカの分布域
出典:国立感染症研究所

2014年、ウイルスを保有する蚊が越冬する可能性

冬になると、蚊がいなくなりデング熱の流行はおさまると言われています。本当に蚊はいなくなるのでしょうか。

雪が降るニューヨークでウイルスを保有する蚊が越冬!

ニューヨークでは、1999年に西半球で初めてウエストナイル熱が発生しました。それ以降も毎年かなりの人が感染しています。原因は西アフリカから渡ってきた鳥が運ぶウエストナイルウイルスで、感染すると約20%の人に倦怠感と高熱、嘔吐などの症状が出ます。重症化すればウエストナイル脳炎となり、精神錯乱や呼吸不全に陥った後に死亡することもあります。

鳥が運んできたウイルスは、ヒトスジシマカをはじめ、アカイエカ、ヤマトヤブカなど様々な蚊を介して感染します。ニューヨークでも、夏になると蚊が発生しますが、日本ほどは多くありません。しかも、従来ウイルスを持った蚊は越冬しないと考えられていたにもかかわらず、常態化し、全米に広がったのです。

いつから始まる? デング熱感染リスク

夏場に蚊をよく見るのは、蚊の活動に適した気温が25℃~30℃ だからです。蚊の活動している期間は、デング熱感染リスクが高いということ。蚊の活動はいつから始まるのでしょうか。

基本的に、蚊は5月から発生

日本には、ヒトを刺す蚊は約30種類いますが、そのうち「ヤブ蚊」と呼ばれるヒトスジシマカは、北は青森県から、南は沖縄まで広く分布しています。また、蚊の活動は、主に5月中旬~10月中旬に見られます。

卵から幼虫(ぼうふら)となり、さなぎへと成長し、成虫へと成長するのが、蚊の一生です。小さな卵が水面に産み付けられ、2~3日で孵化すると、ぼうふらとなって過ごします。卵から成虫になるまでの期間は20日ぐらいで、成虫になってからの寿命は、オスで1ヶ月くらい、メスでは1~2ヶ月、長生きするもので6ヶ月くらいです。

温度が高くなればなるほど、成長が早まる

資料●温度別成長サイクル日数
出典:「ヒトスジシマカ Aedes albopictusの生態知見」松沢寛ら
衛生動物 1966年 vol.17 No.4

温度は蚊の成長を大きく左右します。「ヒトスジシマカ Aedes albopictusの生態知見」(1966)によると、気温が20℃の場合には、卵から成虫になるまでの期間は24日程度ですが、25℃の場合は13.7日間程度、30℃の場合には12.1日間程度と、気温が高まるにつれて、成長サイクルが早まります。また高い湿度が加われば、成長はさらに早まるといわれています。

そこで、2014年の東京の日平均温度(※)と蚊の発生を照らし合わせてみると、5月の平均気温が20.3℃となっていたことから、5月中にすでに蚊が発生していたことが予想されました。また7月、8月の平均気温は、それぞれ26.8℃、27.7℃でした。さなぎから成虫までは、25℃と30℃では、約2~3日という短期間で成長することから、この時期に集中して多くの蚊が発生していたと考えられます。  

地球温暖化などの影響から、年々日本の平均気温が上昇しています。今後も、蚊の成長サイクルが早まり、いっそう多くの蚊が発生する可能性があります。

※日平均温度・・ 1時から24時までの毎正時24回の観測値の平均温度